外から得られた学びを自分たちの現場に適用するには? まずは、現場の状況や制約に照らし合わせることから始めよう - カイゼン・ジャーニーを読んで

私たちも数多くの挫折を味わってきました。やはり、現場を変えるなんて一人では進めることができないのでしょうか。
 そんなことはありません、ということが言いたくて私たちはこの本を書きました。一人から行動を起こすことはできます。そして、その行動が次の進展をつくります。この本では、私たち自身がこれまで経験し、実践してきたことを下敷きにして、どのようにして始めて、周りを巻き込み、前進していくのかを具体的に示しました。
 私たちは、この本が現場を変えていく人たちに寄り添う存在になって欲しいと願っています。(Foreword より)

早いものでもう4月。1年の4分の1が過ぎ去った事実をなかなか受け入れられない時期ですが、そんな時期に今年最高の1冊になるだろう素晴らしい本に巡り会えたので、感想を記しておきたいと思います。

読んだのは、Twitter のタイムラインで話題をさらっているカイゼン・ジャーニーです。

www.shoeisha.co.jp

ストーリー仕立てでとても読みやすく、そして全編にわたって学びがあるのですが、その中でも「最初の一歩はこれ!」と強烈に思わされたことが、まさに第1部の第01話に書かれていました。

外に出て知見を得ていくにあたって、覚えておかなければならない大事なことがある。外から得られた学びを、そのまま自分たちの現場や仕事に適用しようとしても、たいていうまくいかない。自分たちの「状況」に照らし合わせてみることが必要だ。(013ページより)

ところで、これはどういうことなのでしょうか? すぐあとに「うまくいかない」具体例が書かれています。

これは、キーワードだけで技術やプロセス、プラクティスを引っ張ってきて、現場に手段のみを持ち込もうとしたときも同じことが言える。キラキラした言葉に心を持っていかれてはならない。(013ページより)

たとえば、自分の Twitter のタイムラインやはてなブログでは、

  • 実業務ではアジャイルなど使い物にならない!と言われた
  • Git を使えないどころか部内には知っている人が誰一人としていなかった
  • テストコードを書くと工数がかかるからダメだと言われた
  • プロジェクトに関係のない活動は一切禁止と言われた

こういったツイートやエントリーを目にしない日はない、IT 業界あるあるネタの1つです。

社内の状況や文化に不満を感じる日々、発奮して社外の勉強会に参加してみた→素晴らしいスピーチ! 実際に成されたカイゼンとその原動力となったプラクティス!→自分も社内でやってみよう!!→よくて無反応、ともすれば猛烈な反発にあう→社内の文化も組織も人もまるでだめ、向上心も技術者としてのプライドもない人たちばかり……ことの大小はあれ、Twitterはてなブログでもよく目にする話しですし、多くの人が経験していることだと思います。

では、どうすればいいのでしょうか?

実際に現場をカイゼンする原動力となった技術やプロセス、プラクティス……そういったものを使わずして、自分たちの現場をカイゼンすることが出来るのでしょうか?

当然浮かび上がってくる疑問ですが、その疑問に対する答えも用意されています。

私たちは、他者の実践の背景にどんな状況、制約があったのかを理解し、自分たちの状況、制約の下ではどのように実践するべきなのか捉え直さないといけない。(013ページより)

自分は SI 業界の経験が長いので、たとえとして ERP パッケージを会社に導入することが浮かび上がりました。

たとえば、高価な ERP パッケージを買ってもそのままではおそらく業務は成り立ちません。会社の業務に合うようにカスタマイズするのか、逆にパッケージに合うように業務を変えてしまうのか、あるいは費用と効果がバランスする妥協点を見つけ出すのか……やり方の幅も深さもさまざまですが、少なくとも ERP パッケージを買って導入して終わり、ではありません。

つまり、技術やプロセス、プラクティスというものも、他者が成功した実践そのままを自分の現場に持ち込もうとしても、うまくいくはずがないということです。成功した他者が実践している技術やプロセス、プラクティスがどんなに優れていても、カイゼンに成功した他者と現在進行系で苦しんでいる自分の現場とでは、そもそも練度がまったく違いますから、成功した他者が実践していることをそっくりそのまま自分の現場に持ち込むのは非現実的です。

実際に現場をカイゼンする原動力となった技術やプロセス、プラクティスは当然持ち込むし使うとしても、なにを・いつ・どうやって・どこに・どれくらい持ち込むのか、これを考えて持ち込まなければなりません。

自分の現場はなにが足りていないのか? 組織の文化はどうなっているのか? その組織を構成する一人ひとりはどう考えているのか? 日々忙殺されている業務のなかで、何ができるのか・何からなら始めていけるのか? ……それを考えずして技術やプロセス、プラクティスを持ち込んでも労多くして功少なし、でしょうが、それを考えることができれば、それがカイゼンを成功させる第一歩になる。第1部の第01話の解説役である石神氏はそう説いています。

これを読んだとき、「この本は絶対にすごくいい本だ」と感じました。そして、実際に読み終わってもその印象はまったく変わりませんでした。
折に触れて読み返したい、そう思った本です。

最後に、誰もが気になる江島のモデルについて Afterword から引用させてもらって、感想を〆ます。

江島には特定の中身なんてなくて、状況を変えようと奮闘する人たちそれぞれの人にとっての分身なのだと思います。私たちは、この本の主人公が読者のみなさんの分身であって欲しいと思っています。
日本中の現場に、この本のようなお話が生まれることを願っています。今度は、あなたのお話を聞かせて欲しい。主人公はあなただ。(Afterword より)